中野テルヲ Live [Signal/Noise] @ 高円寺 HIGH

「ドイツ人でもあそこまでやらない」

 〜中野テルヲ について、中野泰博(SHOP MECANO)


ライブを見て思ったことをつらつらと書きます。ライブレポではなく感想文です。

Signal/Noise

Signal/Noise


(前提知識:中野テルヲは元・ニューウェーブ少年で、P.I.Lやスリッツのファンだった)
70年代後半に起こったニューウェーブ、その中核にあったのは「テクノロジーを駆使したキッチュ」と「黒人要素の導入」の2つだった。しかしゼロ年代半ばからのリヴァイヴァルでは前者の再評価が目立ち、後者には陽の目が当りづらかった印象がある。
なので中野テルヲが09年の再始動以降、それまでの十八番だったエレクトロニクスにダブ等の黒人要素を色濃く反映させるようになった事は僕にとって興味深かった。その最もたる象徴が新譜で多用され、前回のデンシコンツアーからライブでも使われるようになったCDJだろう。
そもそも「もともとあるレコードで演奏してしまおう」という黒人の発想をエレクトロニクスで再現したCDJは、その成り立ちからして現在の中野テルヲにぴったりな機材である。今回のライブではCDJが演目の殆どで使用され、新譜からの曲での利用はもちろんのこと、過去曲でもお馴染みのシーケンスの間に意表を突くインプロで入って来たりして素晴らしかった。まるでUTSやスカイセンサー、DMP11と並んで「昔から僕もここにいましたけど?」といった感じだった。

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もう1つ今回のライブで象徴的だったのはワンマンライブで時間的に余裕があったにもかかわらず、1曲もP-MODEL時代の曲を演奏しなかったことである。
これに関してはいろいろな意見の人がいる筈だ。かく言う私も1年前のワンマンで初めて中野テルヲを見た時「Call Up Here」を演奏しなかった事に多少の残念感を覚えたものだった。それでも前回のワンマンでは「Monsters A Go Go」「サンパリーツ」とP曲が2つあり、それがファンを大いに楽しませていたのは間違い無いだろう。
しかし…こうして未だ興奮状態(深夜2時)でキーボードを叩いている自分を参照しなくても、今日のライブで満足しなかった中野ファンがいたとは思えない。それぐらい今回のライブは神懸っていて素晴らしいものだった。
中野テルヲにはずっと「元・P-MODELの」という言葉がついて回っている。そしてその事は今後も変わらないだろうし、実際彼のファンの多くはP-MODELからの流入で成り立っているだろう。しかし今日のライブは僕に「この人にもう『元・P-MODEL』の冠詞はいらないんじゃないか」と思わせるぐらい充実したものだった。今の中野テルヲは、今の中野テルヲとしてただただ素晴らしいのだ。

7/23(土) 中野テルヲ Live [Signal/Noise] @ 高円寺 HIGH<前売/当日 3500/4000><開場/開演 18:00/19:00>
Set List


1 エクステンデッド湾〜リターン小道
2 Pilot Run #7
3 Computer Love
4 フレーム・バッファI
5 RUN Radio IV
6 ウーランストッセ節
7 海
8 Pilot Run #4
9 Imagine
10 Amp-Amplified
11 Legs[More Sweetie]
12 現象界パレット
13 Pilot Run #3
14 My Demolition Work
15 Let's Go Skysensor
16 デッドエンド羅針
17 ファインダー
EN.1
1 Long Distance, Long Time
2 Eardrum
EN.2
1 Uhlandstr On-Line

その他もろもろの小言

女子率

恐らく2:8ぐらいで女性の方が多かったのではないだろうか(笑)周りの平均身長が低い中、何だかんだで180cmぐらいある自分は頭ひとつ飛び抜けてしまっていて妙に恥ずかしかった。にも関わらず前方3列目に陣取ってしまったので、後ろの方々には「なんだあの男、自重して後ろで見ればいいのに」と思われていたはずだ。カタジケないが、1年前は最後列だったので許して欲しい。近くで見るテルヲはこの上なくカッコ良かった。ズルイくらいにカッコ良かった。

UTS-6(超音波センサー)

いろいろな音が仕込まれたり「imagine」ではワープロになったりと色々な使い方で手刀を切られるUTS-6だが、今回のライブを見ていて一番痛快だったのはダブのディレイを切る時だった。いつまでも延々と続くかと思われた深いディレイが、さっと手刀を切ると文字通り「切れる」のである。うーん、これもズルイ。視覚効果と音響効果がダブルで襲ってくるので悶絶だった。
曲間のMCで紹介されていた通り、ステージ上のUTSは全て「元・P-MODEL」の高橋芳一による制作である。「彼がいなければこんなライブはできません」とは中野テルヲの弁。ただ高橋芳一はUTSの制作こそすれど、その使用方法は全て中野テルヲに一任している。そんな二人の、開発者とユーザーとしての関係はとても健全で美しいなぁと思う。
因みに今回のライブで使用されたUTSは6と8+(コロラドアリゾナ)のみ。(訂正:Twitterでありがたいご指摘を頂いた。正確には6と8と8+と9であるとのこと。オハズカシイ・・・)弁当箱ことUTS-2はバイノーラル・マイクの仕込まれたマネキン頭部に場所を取って変わられていた。何だかんだでアイツ(弁当箱)も憎めない良いキャラしてるので今後の復活を期待する。

映像と照明

新譜からの曲の殆どで新たに製作された映像が投影されていた。印象的だったのは歌詞中の単語の投影で、普段あまり歌詞カードを見ないで音楽を聴く自分にとっては「あっ、そう歌ってたんだ!」と思う部分もあったりするなど。
「Pilot Run #4」の「裸の男レスリング」映像で笑いが漏れるのも最早定番。ラストの「Uhlandstr On-Line」でソロ1stのジャケの部屋に招待されるところも毎度のことながら鳥肌。高度でない初期CGの面白みと、どっから持ってきたのか質問攻めにしたいモノクロ映像から成り立つあの世界観は中野テルヲの音楽とバッチリ絡み合っている。デンシコンツアーや他バンドとの共演時には見れないワンマンだけの特典であるが、この映像があるか無いかで彼のライブの魅力は大きく変動するだろう。
あと今回のライブは1年前よりも照明が良かった。特に「フレーム・バッファI」のサビで白ライトが天に向かって上がっていくのが良かったなぁ。気持ちが高なった。

老婆心

ハタチのくせして何が老婆心だ!というツッコミはさておき、僕は正直もっといろんな人に中野テルヲを聴いてもらいたいなーと思っている。平沢進とかP-MODELとかと関係なしに、今の中野テルヲは多くの人の心を掴めると思うからだ。
個人的にはフェスとか出たら絶対ウケるだろうなーと思うのだが、彼の機材セッティングにかかる時間がそれを拒むだろう(昨日のワンマンは搬入から3時間後にようやく音が出たそう。中野テルヲ以外誰にも扱えない機材のため。)最小限のセッティングでも1時間かかるらしいし、他のアーティストとの対バンでも絶対に出番はトップだし…孤高のステージングをするものならではの悩みである。
まあ今の、P界隈を多分に知った人々が高円寺に集まって熱狂的に盛り上がるライブにテルヲ自信も満足しているようだし、別に対外的に活動していく必然性もどこにもないのだが…平沢進は信者ファンだけ聴いてればOKだけど中野テルヲはもっといろんな人に聴かれたいというか、今のリアルタイムな音楽シーンでも受け入れられるだろうという1リスナーとしての欲があるわけですよ。うん、これは完全に老婆心でしかありませんね・・・。


一年に一回でいいので、こうしたワンマン形式でのライブが続いたらいいなぁと切に願います。昨日は何もかもが素晴らしかった。うん。